絶体絶命の中、携帯電話が鳴ります。
全てを受け入れ、諦めた時に鳴った携帯電話。
電話の主は誰なのでしょうか?
そしてこの危機を抜け出す事はできるのでしょうか?
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
電話の主
「ちょっとまってください!!」
「?」
「まっまってください、まってください!!」
「なんだ?」
携帯電話に表示されていたのは2年位、会っていない知人でした。
それほど仲の良くなかった久しぶりに連絡の来た友人に貸すかどうかわかりませんでしたが、賭けるしかありません。
「まだ連絡のついていなかった友人です。彼なら貸してくれると思います。お願いですちょっとだけ待って下さい!」
「だめだもうまてねぇ」
「えっ・・・」
「約束は今日までだ。」
「お願いします!ホント大丈夫です!お願いします!!時間は遅れましたが、今日大丈夫です!」
「・・・」
このやり取りの間に電話は切れています・・・
「わかった」
「ありがとうございます!切れてしまったんで掛け直します!」
少しだけ光が見えました。
が、まだ貸してくれるとは限りません。
慌てて携帯電話を開きリダイヤルを押します。
プルルル・・・
・・・
・・
・
「もしもし」
「あ、あべだけど久しぶり・・・」
「あー、久しぶりですねどうしたんすか?」
「ワケは後で話すから悪いけどお金貸してほしい!緊急なんだ!25日に必ず返すっ!」
「いっいや急に言われても・・・」
「たのむったのむっ」
「・・・ずいぶんヤバそうな雰囲気ですね」
「お、おう・・。すまん、もう、お前しかいないんだ・・・」
「そんな事、言われても・・・まぁ話は聞きます。どうしますか?どっかで会います?」
「マジか!有難う!!とりあえず迎えに行く」
「いや、俺もう仕事終わったんで帰りますから家の近くのコンビニ解りますよね?着いたら連絡下さい」
「わかったじゃあ後で!」
光は見えましたが、まだお金を借りられるとは決まっていません。
それなのに私はこの絶望からとりあえず解放される事に浮き足立っています。
「で?どうだった?」
さっきまで哀れみの目で私を見ていた顔がまた元の鬼のような闇金融屋の顔に戻り、私に問いかけます。
「はい!大丈夫です!これから会います」
「おまえ車か?」
「は、はい。会社の営業車ですけど・・・」
「じゃぁ今すぐ車検証もってこい」
「は、はい?」
「だから車検証もってこいって言ってんだろっ!!」
「わ、わかりました!」
急いで車に車検証を取りに行きます。
「やべぇよ。なんで車検証要るんだよ。しかもオレの車じゃないぞ。アイツらなにするのかわらないぞ・・・」
そう思いながらもこの状況では従うしかありません。
ここでまた恐怖が限界まで身体全体を覆いました。
「車検証持って来ました・・・」
「ちょっと待て」
そう言うと車検証をコピーしました。
「車検証は預かる。お前が金持ってきたら返してやる。それまでコピー持ってろ。それと鍵、スペアあるな。それも置いてけ」
「はい・・」
「金、用意出来たらこの番号に電話よこせ。時間は21時半までだ。連絡ない場合は俺らはどんな事でもする」
時計の針は19時半を指しています。
「わかりました・・・」
席を立ち事務所を出ると改めて恐怖と緊張感がまた体全体を被います。
そうです、まだ何も終わっていないのです。
精神的にも身体的にも限界を超えていました。
今まで味わった事の無い緊張感、恐怖。そしてそれらが自分の許容範囲を超えた時に訪れる諦めの境地。
今、恐怖と緊張感だけが身体を突き動かしています。
ジェリー
「もしもし、あべです。今コンビニの前に着いた」
「わかりました。今行きます」
ここで自分の顔をパチンと両手で叩き気合をいれます。
もし、お金を借りる事が出来なければどうなるかわかりません。
「お久しぶりーっす」
「おう、久しぶり。ホントすまんなこんな事で・・・」
「マジ、どうしたんですか?まさかヤバイところから金借りたとかじゃないでしょうねぇ」
「・・・いや、実はそのまさかなんだわ。」
「マジすか・・・」
「会社の車の車検証とスペアキーも取られてるし、通帳も取られてる。もちろん職場も知られてるし実家も知っている。実はおまえから電話来たとき丁度さらわれる所だった・・・」
「な、なんすかそれ・・・」
「闇金融ってやつ」
「・・・で、いくらいるんですか。俺もそんな金無いですよ。」
「あ、うん・・・75,000円」
そいつの事は、でん助と呼んでいました。
3年前に勤めていた職場の同僚でした。
年は一つ下だけど会社で孤立して要領が悪くいつも遅くまで仕事をしていました。
たまに、見かねて仕事を手伝ってやり、帰りに食事をする程度。
「あべさん、なんでオレの事かまってくれるんすか?オレ仕事できないからみんなにきらわれてますよ。オレの事かまってたら、あべさんも嫌われちゃいますよ」
「あ、いいよ。俺も好かれてないし。仕事はできるけど笑」
「オレ会社辞めようと思ってるんです」
「そうなんだ。で、どうすんの?次なんか決まってんの?」
「何も決まってないです。とりあえず半年くらい期間工かなんか出稼ぎ行って金貯めてから考えようと思ってます」
「そっか、頑張れよ」
「はい!・・・」
「?」
「お願いがあるんですけど・・・」
「な、何だよ」
「ハムスター飼ってるんですけど出稼ぎ行ってる間、預かってくれませんか?」
「いいよ」
「マジですか!有難うございます。オレ、ジェリーの事だけが気がかりで仕事やめるの躊躇してたんです!」
「なに?そのハムスター、ジェリーっていうの?」
「そうです。ジェリー、めちゃくちゃかわいいですよ。良かった、あべさんなら良かった」
「で、いつくらいなの?」
「緊急なんすけど・・・今日、この後いいですか?」
「キョっ、今日!?」
「ダメすか・・・」
「い、いいよ」
そして飼い方のレクチャーを受け、注意点などを聞き「ジェリー」の引越しは完了。
でん助は次の日から会社に来なくなりました。
そして3日後には期間工の仕事に就いたとメールが。
仕事は遅いけど行動の早さに少々驚きました。
ここから半年間ジュリーとの同居生活が始まると思っていたけどストレスからか一週間でジュリーは亡くなってしまい、どうしようか迷ったけどでん助には伝えませんでした。
折角新天地で頑張っている、でん助が悲しむと思ったから・・というのは嘘で自分の飼い方が悪くこうなってしまったと思われたく無かったからでした。
伝えたのは4ヵ月後になります。
「病院にも連れて行ったんだけど無理だったスマン」
「いえ、あべさんは悪くないです。有難うございました」
でん助とはそれきり連絡を取っていませんでした。
「・・・わかりました。ちょっと待ってて下さい。」
一度部屋に戻りすぐに、車に戻ってきました
「75,000円あります。すみませんが必ず25日返してください」
「助かった・・。有難う、必ず返す」
自分はでん助への感謝の気持ちより、身体を支配している極度の恐怖と緊張から解放される安堵を感じていました。
この時の私は助かりたかっただけです。
時計を見ると21時20分でした。
約束の時間まで後10分です。
急いで連絡をします。
「もしもし」
「すいません、あべです」
「おう、金用意できたのか?」
「はい」
「ホントか?」
「はい。どちらにお持ちすればいいですか?」
「明日来い」
「はい?」
「だから、明日事務所来い」
「わかりました・・・。」
さすがに今日ばかりは自宅の駐車場に車を止めます。
先ほどの緊張感や恐怖感が嘘の様に身体から抜けていますが、疲労は困憊です。
布団に入りこう誓います。
「もうパチンコはやめよう。借金も頑張って減らしていかなきゃいけないし闇金なんか絶対に手を出しちゃダメだ」
10話終了です。
ここで、踏みとどまれば何とかなったかもしれません(毎回ですが・・・)
しかしどんなに固く誓った決意も次の日になると・・・。
これがパチンコ・パチスロ依存症の怖さです。
まだまだ続きます。
11話↓
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