2件目の闇金から借りた3万円をその日に失い、 手持ち金額はほぼ0円になってしまいます。そして翌々日には出張が待っている中、最後の頼みの綱の彼女にも借金を断られてしまいます。ほぼ諦めの境地の中、会社へ行くと出張費の仮払金ということで1万円を渡されます。そしてそのお金を財布にしまおうと財布を開けるとそこには一万円札が3枚と彼女からの手紙が入っていました。思いがけない現金を手に入れてしまった私は、この後どのような行動をとるのでしょうか。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
光と影
「おはようございます。あ、兄貴、明日現地集合にします?それともどこかで待ち合わせして一緒に出ますか?」
「そうだな。現地集合にしようか。とりあえず荷物ウィークリーマンションに置きたいから、10時着でいいんじゃないか?」
「了解です。わかりました」
「それと、営業先のリスト、洋平持ってんだろ?今日中に分けて夕方までに俺の机の上に上げといてくれ」
「OKです」
なんだか不思議な気分でした。 何のあてもなく無一文で出張に行かなければならなかったはずが、今財布の中には4万円入っています。
午前中の営業をこなし、コンビニの駐車場に車を止めます。ミィにメールを入れました。
「3万円ありがとう。嫌な気分にさせて申し訳ない。ミィの気持ちはわかったよ。この先そんな気持ちにさせないように気を付けるよ。」
すぐに返信が返ってきます。
「用意ちゃんとしてよ。歯ブラシとかシャツとかクローゼットの横にまとめて置いてあるから」
「わかったよ。ありがとう」
「ごめん、今、忙しいの。帰ったらまたメールするわ」
「そっか。忙しいところ悪かった。じゃあまた後で」
彼女は私が寝静まった頃、こっそり起きて用意してくれたのでしょう。 これは彼女の優しさであり母性です。そして空っぽの私の財布を見て 3万円を入れたんだと思います。 しかしこれは、優しさではありません。抜け殻のようになっている私を見て耐えきれなくなったんだと思います。 変わっていく私を見て それに耐えきれず、 どうすることもできずに、財布に3万円入れたんだと思います。 誰もが持つ当たり前の弱さです。 彼女はそれを受け入れることができずに必死になっていました。悪いのは私です。
その日は、早めに営業を切り上げ会社に戻ると、 すでに洋平は戻っていました。
「洋平、リスト、サンキュー」
「あ、兄貴、おつかれっす。今日どうします?打ちます?」
いつものストップボタンを押す仕草をします。
「今日はやめとこうぜ、俺、用意まだ何もしてないから今日はまっすぐ帰るわ」
「まじっすか~。兄貴そう言うんだったら、俺も帰りますわ」
「おう、明日行く時をつけてな」
「了解しました。じゃあお先に、おつかれっす」
「お疲れ」
いつもの私なら、早く退社できることを幸いに、誘いのままパチンコにいっていましたが、この日は、なんだか違いました。きっと彼女の優しさや弱さが胸にひびき、私をそうさせなかったんだと思います。 早めに会社を出た後、牛丼屋で食事を済ませ自宅の駐車場に車を停めていました。 久しぶりに感じた穏やかな気持ちです。 そして彼女のことを思い、いたたまれない気持ちになりました。
「どうにかしなきゃ・・・」
その気持ちとは裏腹に、どうすることもできない現実が待っています。
部屋に入り、クローゼットの横に包まれたシャツを見て、溢れ出る涙を止めることができませんでした。
なかなか減らない消費者金融の借金。支払いのしていない家賃、携帯代、光熱費。闇金からの借金。 何よりも彼女の気持ちを考えると、自分が情けなくなります。 そしてそれら全てはもうどうすることもできないところまで来ています。
恐怖、悲しさ、申し訳なさ、絶望・・・
その感情はうねりを上げて私の体を支配します。どんなにふりほどこうと しても体にまとわりつき締め付けます。
涙が枯れた頃、私の感情は消えました・・・。
気が付くと、メールの着信ランプが点いています。
「あれ?もう寝たのかな?私も明日早いからもう寝るね。ちゃんと食べなきゃダメよ。おやすみなさい。」
カムバック
ウィークリーマンションに着くと、洋平はすでについていました。
「おはようございます。先、着いちゃいました」
「そっか待たせて悪いな、早速部屋入って荷物おこうぜ」
「はい」
そのウィークリーマンションは、六畳ほどのワンルームで、ベッドがひとつ置いてあります。
「あれ?もしかして寝る場所ひとつしかないんじゃないか」
「マジすかっ!あ、クローゼットの中に入ってるとか・・・ありました大丈夫です兄貴」
「おう、よかった。さすがに男二人はきついべ」
「いや俺、結構大丈夫ですよ。」
「・・・」
「冗談ですよ(笑)」
「お、おう。今日は初日だから早めに切り上げて、ゴミ袋とか洗剤買いに行こうぜ。出張費もらってるから」
「了解です。じゃ目処着いたら電話します」
そしてその日の営業を淡々とこなし、車に戻ったところで洋平から電話が入り、近くのホームセンターで待ち合わせをしました。
「兄貴、今日飯どうします?」
「ラーメン屋とかでいいんじゃねえか?」
「わかりました。でも飲みに行きたいっすねぇ」
「宅飲みにしようぜ」
「わかりました。何か大丈夫すか兄貴?」
「何が?」
「いやぁ、パチも行かない飲みにも行かないから、珍しいなーと思って」
「ま、まぁな。まだ先長いんだしいつでも行けるだろ」
「そっすね」
次の日も、またその次の日も、パチンコに行かず、外でも飲まずの日が続いています。あの日から、いつものような感情が湧かなくなっていました。ひとつも解決していませんが、恐怖心も絶望感もありません。一瞬、闇金のこと、支払いのことが頭に浮かんできますが、それはすぐに消えてしまいます。 彼女は毎日メール送れていましたか、返信をする時だけ少し現実に引き戻されます。しかし部屋には洋平がいて ちょうどよく話題を振ってくれるため、その気持ちもどうにかなっていました。
出張に来てから5日目、いつものように営業を回っていて車に戻ると携帯電話の着信音が鳴ります。
「もしもし」
「地獄金融です。」
「あ、はい、ど、どうも」
「あべさん。明日支払日だけど何時に来るの?」
「そ、それが・・・実は急に出張が決まってそっちに帰れなくて・・・」
「だめだ、持って来い」
「ほんと、すいません無理なんです・・・あの、銀行振り込みとか無理なんですか?」
「だめだ、銀行振り込みとやってねぇんだ。持って来い」
「ほんと、無理なんです。お金が無いわけじゃありません。」
「ちっ。じゃあ郵便為替で送って来い」
「ゆうびんかわせ・・・?なんですかそれは?」
「郵便局行って為替でって言ったらわかるから行け」
「は、はい」
「必ず午前中にやれ。そして送ったら必ず電話よこせ」
「はい・・・」
「で、全額入金するのか?」
「い、いやジャンプで・・・」
「わかった」
電話を切った瞬間、恐怖が蘇ってきます。そしてその恐怖と同時に、全ての現実が私を覆いました。とりあえず今財布に入っているお金も、明日の支払い、そしてその二日後のもう一軒の闇金融への支払いでほとんどがなくなってしまいます。家賃を払っていません。携帯代も電気代も水道代も・・・。このまま未払が続けば来月には止められてしまうかもしれません。家賃も未納が続けば、部屋を追い出されるかもしれません。そして解決策は何も思い浮かばないのです。
私は数日間、以前のようにパチンコには行かなくなっていましたが、感情を消すことによって、今ある問題から目を背けることができました。そして財布の中に入っているお金が少しだけ私に安心感を与えていたのです。 皮肉なことに、闇金の電話で以前の私に戻ることになりました。
お金が持つ安心感は魔力です。 そして、その安心感が魔力だと気づいた時、私に残ったのは、恐怖、悲しさ、申し訳なさ、絶望という感情だけでした。
以上18話終了です。
当時、多くの闇金融は銀行口座をあまり使いたがりませんでした。違法な金融ですから、何かあった時に足が付くのを恐れるのと、そのほとんどが違法に手に入れた口座だったため、万が一問題があった時に その口座が凍結される恐れがあったためです。口座を凍結されると一切、出金が不可能になります。 そのため当時このような時、多くの闇金融は電信為替を利用して入金させていました。今現在は 電信為替は廃止されているようです。
まだまだ続きます。
19話↓
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