さらに追い詰められた私は、5件目の闇金に手をだし、いつもの場所へ吸い込まれていきます。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
液体
過ぎた時間の記憶もないまま車にもどります。
外はしんしんと雪が降り注ぎていて、出口を出てからわずかな間でも頭にはうっすらと雪が積もっていました。
積もった雪を降り落とさずにドアを開け、冷たくなったシートに深く腰掛けます。
頭の中は、あたり一面と同じように真っ白でした。
あっという間に財布の札がなくなっていくのと同じように、記憶がなくなっていきます。
ほんの数時間前までのメンタルはすでに吹き飛び、その前にあった恐怖と苦しみが体を支配しました。
これでミィのカードから勝手に引き出したお金も返すことができません。
それどころか今月分の返済もこれで不可能です。
追い込まれた状態が進めば進むほど不思議な感覚が湧き上がってきます。
もうどうでもいい・・・。
とは違う感覚。
これから起こりうる現実に恐怖しながらも、どうにかなりそうな感覚。
支払いだとか、闇金だとか全て自分のことではないような感覚。
まるで、自分ではない誰かに起きた現実に感じます。
私は何も考えずに、車を走らせミィが待つ部屋に帰りました。
だんだんと駐車場に近づくにつれ、少しずつこの先に起きる出来事の予感がわいてきます。
降り積もった雪を除雪し、部屋に向かって歩き出しました。
「ミィには何て言おう・・・」
2つ3つ言われそうなことを頭で想像しながら部屋のドアを開けます。
「ただいま・・・」
「おかえり・・・」
最近は昔のような笑顔をあまり見せませんでしたが、特に今日はその表情が曇って見えます。
しかし、それは罪の意識からあまりにも私が彼女に過敏になっているだけです。
もちろん、ミィには私が勝手に増えた限度額分を勝手に下してパチンコで負けたことも、今月の支払いをすませてないことも気付いてないでしょう。
だけど、彼女は全てをわかっているのではないかという被害妄想が私を支配しました。
気がつくと背中と脇の下にびっしりと汗をかいています。
この後、彼女は必ず支払いをしてきた明細を求めてくるでしょう。
その予感は全て恐怖に変換され、重たい鎖で全身を縛りつけました。
思った通りの展開になります。
「まさくん・・・・。カードの支払いの明細・・・」
「あ、あぁ・・・ちょっとまって・・・あれ?っおかしいな・・・」
予想通りのセリフにたじろぎながら、私はスーツのポケットの中を確認する”フリ”をしました。
とうぜん、明細なんてあるわけがありません。
必死の演技です。
冷ややかな視線を感じながら、次に鞄の中を探すフリをします。
「どうしたのよ・・・」
「いやっ・・・あれ?なくしちゃったのかな・・・」
「まさくん。ホントに支払いしてきたの?」
「なにいってるんだよ。ちゃんと払ってきたよ!」
自分で驚くほどにスムーズにウソが口からでてきました。
だけど、すぐ後に罪の意識と苦しみが押し寄せてきます。
全てを打ち明けたいという気持ちになってきました。
私はラクになりたいだけです。
すべてのネガティブに押しつぶされそうで、苦しみから解放されるのであれば何でもいいと思います。
明らかに彼女は私のことを疑っていました。
ある意味、女の勘というやつかもしれません。
「ホントにホント?」
「なんだよ!!ホントだよっ!!」
ウソを重ねるほどに苦しさが増してきます。
そして、ウソが増えるほど本当に支払いを済ませてきたかのような気持ちになってきました。
どれが現実でどれがウソなのかわからなくなってきます。
「わかったわよ!怒らなくってもいいじゃないっ!!」
「ミィが疑うからだろっ!!」
「なによっ!!」
その後、彼女は口を聞かなくなりました。
一度は機嫌を取ろうと試みますが、すぐにあきらめます
なぜなら、ウソがバレてしまうと思ったからです。
今日パチンコ・パチスロで負けたので彼女の名義になっているカードの支払いはできません。
支払い期限は今日まで。
このままだと、ミィに連絡がいくことになるでしょう。
下手をすると会社に連絡がいくことも考えられます。
このことがあらためて頭に浮かんだ時「取り返しのつかないことをしてしまった・・・」と、激しく後悔しました。
そして、この後起こりうるであろう数々の悪い予感が、ドロっとした液体のようになって心の隙間から湧き出してきます。
その液体が血液と一緒に全身を巡り、私を支配するのに時間はかかりませんでした。
悪い予感は当たるものです。
134話終了です。
あと、もう少しで終わります。
135話↓
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