闇金の支払い当日、財布にお金はありません。支払いのお金は前日にパチスロで溶かしてしまいました。支払いをする約束の時間が過ぎ、闇金からの催促の電話に怯えながらどうしてよいかわからず、洋平に借りようとしますが、訪問先にいるのか電話にはでません。そのまま10分、20分と時間が過ぎ、恐怖に支配されながら待っていると、電話の着信音が鳴り響きます。果たして電話の相手は・・・?
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
3番目の刺客
恐怖の中、電話の着信音が鳴り響きます。闇金からの催促の電話のあと時間が経っていたため、その電話が洋平からなのか、業を煮やした闇金からなのかわかりません。助けの電話なのか恐怖の電話なのか、相反する気持ちが自分の中で入り混じり、おかしくなりそうでした。
恐る恐る、携帯電話を開きます。
開いて番号を見てみると、全く知らない電話番号でした。
安堵でも恐怖でもないその結果に、いささか拍子抜けしてしまいます。市外局番を見ると知らない市外局番が表示されています。私は電話に出ることにしました。
「も、もしもし」
「もしもし、あべまさたか様で、お間違えないでしょうか?」
言い回しは丁寧ですが、電話の声は明らかに普通じゃない感じがしました。
「はい、そうですが・・・」
「忙しいところすいません。今、話しても大丈夫ですか?」
「はい」
「私、リッチファイナンスの木村といいます。いま無造作にお電話してまして、お金の方お困りでしたら、ご相談に乗りたいという事でお電話をしています。」
「はい」
偶然??にもかかってきたその電話は、闇金の支払いに困っている私にとって、正に天使の声に聞こえました。
「す、すいません。お話聞かせてもらえますか?」
「あ、はい。今、何かお金ご入用ですか?」
「そ、そうですね。もし貸して頂けるなら貸してほしいです。でも今、出張中でそちらに行ったりできないです・・・」
「それでしたら、心配いりません。審査の結果、お貸しできるなら、銀行振込ですぐに対応します」
「では、すいません。お願いします」
「そうですか。それでは、審査してみますので、改めてお名前、ご住所、生年月日、お仕事、他社の借り入れ状況をお聞かせ下さい」
「はい、わかりました。名前はあべまさたか、住所は・・・」
一通り答えた後、私はこう考えます。
「助かるかもしれない・・・」
そして、電話の相手はこう答えました。
「それでは、審査後、改めてこちらから電話いたします。30分少々お待ち下さい」
「わかりました」
明らかに普通の金融ではない事は気付いています。しかし恐怖から逃れたいのと、前日からその恐怖に支配された私の頭は正常な判断を遮断しました。それよりも今「安心」する事を求めています。一瞬、小さくこの先にある地獄が見えましたが、それを意図的にかき消しました。何よりも今、助かる事が最優先です。
表裏一体
電話を切った後すぐ洋平から電話がかかってきます。先ほどの電話で、少し恐怖から逃れる事ができた、私はこう考えます。
「さっきの所がお金貸してくれれば、支払いは問題ないけど、貸してくれるかどうかわからないな・・・。そうなれば支払いヤバイよ・・・。洋平にも頼んでおこう」
「もしもし」
「あ、おつかれっす。どうしました?着信いっぱい入ってましたけど・・・」
「すまんな。訪問中に」
「いえ、大丈夫っす」
「今、少し大丈夫か?」
「はい」
「いや、実はなちょっとお袋がな、緊急で親の病院代で2万必要なんだけどオレ、手持ちなくてよ、何とかならないかと思って・・・」
もちろんウソです。
「ま、マジすかっ!そりゃぁヤバイじゃないですか!大丈夫すか!」
洋平は純粋で心のやさしいやつです。きっと親の愛情をたっぷり受けて育ったのだと思います。
「いやぁ・・ちょっとヤバそうなんだよな・・・。金、無いと病院行けないみたいで。給料日に返すから、悪いんだけど何とかならんかな」
「大丈夫ですよ。貸します、貸します。気にしないで下さい。で、どうすればいいですか?早くしないと、お母さん病院行けなくなってしまいます」
「すまんな。じゃあ洋平の所まで行くよ。今、どこだ?」
「○×町4丁目です。でかいスーパーあるんで、そこの駐車場で弁当食って、待ってます」
「おう、わかった。10分くらいで行くわ」
「了解です」
そして、洋平が待っている駐車場に向かっている最中に電話が鳴ります。支払いの催促の電話でした。
「はい」
「あべさん、何やってんだ。まだか?」
「す、すいません。ちょっと取引先から急に呼び出しがありまして、今終わったところなのですぐに郵便局向かいます。」
「ほんとか?早くしろよ。こっちは待ってるんだっ!」
「す、すいません」
「手続き終わったら、すぐ電話よこせ。」
「はいっすいません・・・」
洋平が待っている駐車場に着き、お金を受け取るとすぐに近くの郵便局に向かいます。そして送金する手続きの後すぐに電話しました。
「もしもし、あべです。今、送った所です」
「そうか、わかった。次はちゃんとしろ、わかったか」
「は、はい」
闇金への電話が終わった後、大きくため息がでます。昨日のパチスロでお金が全て無くなってから、今この時まで、感情を揺さぶり続けられていました。部屋に着いた後からは恐怖に全て支配され、意図しない金融からの営業電話で少し希望を見出して少し安心し、さらに洋平がお金を貸してくれることで安心し、そして途中の催促の電話で再び恐怖し、そして支払いが出来たことに大きく安心しました。
しかし状況は日に日に悪くなっていってます。闇金への借金は減っていません。洋平からも借金しました。家賃や他の支払いもしていません。何も解決していないのです。もちろん自分でも気付いてはいます。
ここで、妙な気持ちに気付きました。追い込まれて、どうしようもない状態になり、必死にもがきます。それは、怖くてとても苦しい事です。その苦しみから逃れようと必死になり、借金をすると、安心感が体を包むのです。変な言い方ですが、それはとても快楽でした。とても気持ちよかったのです。
しかしその快楽は幻です。その快楽の裏側には苦痛がピタッと貼り付いていました。苦痛の後にはまた快楽を求めます。もう逃げることはできません・・・。
洋平に改めて、お礼の電話を入れた後、自分の現場付近に戻り、車を止めて一息つきます。そして携帯電話がなりました。
「リッチファイナンスの木村です。審査の結果ですが・・・」
以上22話終了です。
パチンコ依存症・パチスロ依存症は安心感を求めています。そしてそれに伴う借金も同じです。恐怖と安心感のギャップが大きいほどその安心感は大きく自分を包み込んでくれるのです。その安心感から逃れる事はできません。その先にどんな苦しみが待っていようと、自分の意志ではどうすることもできないのです。少なくても当時の私はそうでした。
まだまだ続きます。
23話↓
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