残金2000円ギリギリのところで何とか連チャンして手持ちの51000円を失わずに済みました。気分は高揚していましたが問題は何も解決していません。
未払いの支払い、そして闇金の借金。明日からはまた出張です。確実に忍び寄る地獄の日々ですが私は気付いていても気付かないふりをしています。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
普通
「ただいま!」
「まさくん、おかえりっ!」
「はい、これ」
「うわぁ何?もしかして?」
「うん、ミィ食べたいって言ってたやつ」
「ミルフィーユ!やった!!」
無邪気な彼女をみているとこっちまで気分が明るくなってきます。この時間がずーと続けばいいのにと思いました。だけだ心の奥では明日になると解決しない問題が自分を支配する事に気付いています。それを必死に掻き消して、この穏やかな時間を楽しんでいました。
「もうちょっと待ってね。もうすぐご飯炊けるから」
「はいよ」
着替えをしようとクローゼットの前に立つと、支払いのしていない請求書の束が目に入り、さっきまでの穏やかな気分から一気に現実に引き戻されます。
着替えをしながら、請求書の束が見えなくなるように奥に隠しましたが、心の中にある現実の恐怖はどんなに奥に隠しても見えなくなることはありませんでした。
「まさくんできたよ!」
「おうっうまそう!」
「でしょ笑」
「いただきますっ」
「いただきまーす!」
とても優しく穏やかな時間と空間です。着替えをしている時からまた芽生えた現実と恐怖を優しく包み込み、心の奥で震えていた私を抱きしめてくれている感じがします。
いつも何をしていてもパチンコ・パチスロのことや支払いのこと、そして闇金のことが頭のどこかに張り付いていて、それはどんなにツメをたてて剥がそうとしてもはがれません。そしてそれが時折大きなうねりを上げて私を支配します。
このイヤな気持ちから逃れる術はパチンコ・パチスロしかありません。しかし逃れられる時間はパチンコ・パチスロを打っている時だけでした。そしてその気持ちはさらに大きな恐怖となって私の気持ちに張り付いています。
ミィとの時間は、そんな私の恐怖を優しく包み込み、本当は恐怖に震えている私を救ってくれました。
「もう、パチンコやめよう・・・。なんとか借金も返して普通になろう。」
私は疲れていました。そして気付いていました。今ある状況から抜け出すには、パチンコをやめて、ミィには今の状況を正直に話し、立て直すしかありません。
私は決意しました。金輪際パチンコ・パチスロを止めよう。そして出張が終わったら、ミィにも全て話してみよう。なんとか立て直すんだ。
そう決意したのも束の間、優しく包み込まれた気持ちを突き破り、またいつもの恐怖が私を支配し始めました。
私は必死にその恐怖を押さえ込もうとしますが、どんなに押さえ込んでもすぐにその恐怖は顔を出してきます。
「ねぇ、まさくんおいしい?」
「あ、う、うんミィのハンバーグ美味しいよ」
「そか、よかった!!」
夕食を食べ終わり、嬉しそうにミルフィーユを食べる彼女をの横で、まだ私は必死に恐怖と戦っていました。恐怖に支配されそうになる時、彼女の顔が笑顔の時だけ一瞬その陰を潜めます。
「まさくん、お風呂はいる?」
「う、うん、そだね」
「じゃぁ洗いものしちゃうね」
「じゃぁオレ浴槽洗ってくるわ」
「うん、おねがい」
洗いものが終わり浴槽にお湯が溜まるまでの時間、彼女の何気無い会話、仕草が改めて私を優しく包みこみました。
そして改めて私は決意します。
「もうパチンコはヤメだ。借金も返して普通になる」
久しぶりに2人で布団に入り、カーテンの隙間から少しだけ差し込む月の光がさらに私を優しく包み込んでくれました。
「ねぇまさくん、早く出張終わればいいね」
「うん、あと2週間くらいだよ」
「うん・・・。」
「どうしたんだよ」
「・・・」
「ど、どうした?」
「ねぇ・・・まさくん疲れてる?あたし、なんかムズムズするさっ」
「なんだよっムズムズするって笑」
「いひひ笑」
「ムードも何もないなっ笑」
「だってぇ・・・笑」
暗い部屋の中でもわかるくらい溢れ出る彼女の照れてる表情が、私を恐怖から救い、優しく、そして強くさせてくれた気がします。
この時は全てのことに負ける気がしませんでした。そして自分の中にある優しさを全て彼女に向けていました。
悪夢
彼女を駅まで送り、出張先のウィークリーマンションに向かっています。
高速に乗り、少しずつ変わる風景を見ながら昨日の気持ちを改めて噛みしめていました。
彼女と付き合って1年と少し。今までも彼女といると幸せな気持ちにさせられていましたが、彼女のことを思いパチンコ・パチスロをやめる決意をしたことはありませんでした。
それまで、パチンコ・パチスロを止めようと決意する時は、手持ちのお金を全て失くした時にしかありません。借金をして、支払いのお金など使ってはいけないお金に手を出し、それが全て手元から消えてしまった時に、いつも「止めよう」と決意したのでした。
しかしパチンコ依存症・パチスロ依存症の私は、それ以外の理由でパチンコ・パチスロを止めよう決意したことはありませんでしたし、もっと言えば日付が変わるとそれまでの決意は綺麗になくなり、また無意味な金策をし、パチンコホールに向かう日々でした。
そんな私が、初めてわずかでもパチスロに勝った後にパチンコを止めようと決意したのです。それはまぎれもなく彼女の優しさに触れ、彼女のことを思い、生まれた決意。
それまで空虚だった私の心の中に生まれたこの気持ちを大事にしたいと感じます。そして新たに生まれたその気持ちは何よりも強い気がしました。
ウィークリーマンションに着き、荷物を部屋に置くと早速営業に向いました。なんだかいつもより気分が良くすべてが明るく見えています。
数件、会社を訪問し終えた後、携帯電話がなります。番号を見ると洋平からの着信でした。
「お疲れ!」
「兄貴、おつかれっす。もうこっち着いたんですか?」
「あぁ、もう着いて何件か訪問してるぞ」
「マジっすか。疲れてないっすか?大丈夫です?」
「大丈夫だ。問題ない」
「了解です。自分まだ回るところあるんで終わったらまた連絡します」
「わかったよ。オレも、もう少し回る」
その後も調子よく数件まわり、営業を進めてふと時計を見ると17時を過ぎていました。
「今日のところはこの位でいいかな。とりあえず会社に業務連絡と」
いつもは、パチンコをやめる決意をしても翌日には忘れて、パチンコを打ちたくなりソワソワする時間帯ですが、今回は不思議とそんな気にならず落ち着いています。
不思議なその感覚に自分でも少々驚きながらも、気分はとても穏やかでした。
会社に業務連絡を入れたあと一息つくと、洋平から着信が鳴ります。
「兄貴、おつかれっす。こっち終わりました。兄貴どうですか?」
「おう、おつかれ!オレも今、業務連絡入れ終わったところだわ」
「了解です。兄貴、今日どうします?打ちます?」
「あ、うん今日は打たねぇわ」
「ですよね。移動もあってお疲れですもんね」
「まぁ疲れは全然大丈夫だけど、飯行こうぜ。この間のところでラーメンどうだ?」
「了解しました。じゃぁラーメン屋で後ほど」
「おうっ!後で」
なんだか清々しい気持ちでした。いつもならどんなに疲れていようと、パチンコであれば洋平の誘いに乗っていたはずです。ましてや財布には55000円ほど十分な軍資金が入っています。私は洋平のパチンコの誘いに乗らず、打たないことになんだか誇らしい気分になっていました。
とりあえず、いつもとは違い誘惑に勝った気でいたのです。たった一回の誘惑でしたが、もう全てに勝った気になっていました。
ラーメンをすすりながら洋平が不思議そうな顔で話しかけます。
「兄貴どうしたんですか?」
「なにが?」
「いやぁパチンコ行かないって言うから・・・」
「ばぁか、何にもないよ。ただ何となくだよ」
「そうですか。じゃぁいいですけど珍しいなと思って」
「パチンコ行かないだけでおかしいって、おれどんだけだよ笑」
「すいません、すいません笑じゃぁデリヘル呼びます?」
「今日はいいよ。っていうか洋平ホント好きだな風俗。笑」
「いやぁ、まぁ・・・」
「呼ぶんならいいぞ。俺、適当にファミレスで時間つぶすわ」
「マジすか!なんか、すいやせん疲れてるのに」
「気にすんな笑」
ラーメン屋を出た後、洋平はマンションに戻り、自分は車に乗り込み走りだしました。今までであれば私はパチンコ屋に向かったところですが、この日はあてもなく車を走らせコンビニの駐車場に車を止めています。
お茶とスナック菓子を買い、車に戻るとミィからメールが入りました。
「まさくんお疲れ様。無理しないで頑張ってね。」
いつもとは違い、すぐに返信を打ち始めました。
「ミィも無理しないで頑張れよ。」
またすぐに返信が来ます。
「わぁなんだか嬉しい。返信はやーい!ありがとう」
「ゆっくり休めよ」
「はーい。明日、早いからこれからお風呂入って寝まーす」
「わかったよ。おやすみ」
「おやすみー」
車に戻りお茶を飲みながら、一息つきました。一瞬また現実の恐怖が体を支配しそうになりますが、なんとか振りほどきます。
前日のクレーム処理、そして車での長距離移動で、疲れていたのでしょう。気がつくと私はシートを倒し眠っていました。
眠っている最中、夢を見ていました。初めてミィと行った海に、また二人でドライブです。
いつかまた行こうと約束した海に、助手席のミィは少し、はしゃいでいました。
車を走らせると小さなトンネルが見えてきます。このトンネルを抜けると海が見えてくるはずです。
トンネルに入ると先ほどまで、はしゃいでいた彼女の笑い声が少しずつ遠くなっていきます。
トンネルを抜けると鉛色の海が広がり波が大きくうねっていました。
ビックリした自分は助手席のミィに視線を向け話しかけようとしましたが、そこにはミィはいませんでした。かわりに見知らぬ男が座り、遠くを見つめています。
全身を恐怖に支配された私は慌ててブレーキを踏み車を止めました。
すると男がゆっくりとこちらに視線を向け、こう言います。
「逃げられると思ってんの?」
29話終了です。
この時のことは、なぜかはっきり覚えています。いつもとは違いパチンコで負けていないのにパチンコを止めようと決意したのです。彼女との時間や空間が、そして彼女のことが、とても大切に思い、全てを変えようと心に決めました。
しかし、パチンコ依存症・パチスロ依存症は強力です。私はそのことに気付かず、少し浮かれていたのだと思います。パチンコ依存症のことをまるで無知な私は、この後さらなる地獄が待っていることなど知る由もありません。
私が思い描いていた未来とは、まるで逆の世界が待ち受けていました。
まだまだ続きます。
30話↓
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