闇金3件の支払いを済ませ、財布に入っていた約5万円弱のお金がほとんど消えてしまい、出口の見えない絶望の中にいました。今後も闇金をジャンプし続けると完全に終了です。しかも支払いや借金は他にもたくさん残っていました。出口のないこの状況で、パチンコ依存・パチスロ依存症の私はこの先どのような行動をとっていくのでしょうか。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
無味
力なく車のドアを閉め、カバンを放り投げました。朝の支払いが済んでから、営業に回りましたが、絶望の中にいる私は今日一日回った訪問先をほぼ全て忘れています。
「あれ?今日回ったところ全然おぼえてない・・・。メモも取ってないや・・・」
営業日報を適当にまとめて、会社に業務連絡です。
「あ、お疲れ様でです。あべです。ただいま本日の業務終了しました。本日の訪問件数は○○件で、見込み客は・・・」
ほとんど、実入りの無い一日でしたが、業務連絡は当たり障りのない数値を報告しました。こういう時はそれまでの本当の数値のだいたい平均値を報告すれば、可もなくなく不可もなくです。
業務連絡が終わり、ウィークリーマンションに戻ろうとすると、洋平から電話が鳴ります。
「兄貴、おつかれっす」
「おう、おつかれ」
「こっち今、終わりました」
「そうか、洋平わりぃけど、また半額弁当買ってきてくれないか。」
「了解しました。どんなのにします?」
「あ、なんでもいいよ。洋平に任せる」
「わかりました!」
「あ、オレも終わってるから先にマンション戻ってるわ」
「はい」
出張は残り3日間あります。財布の中には2千円ちょっとしかない為、なんとか安い食事でもちこたえなければなりません。
ウィークリーマンションに戻り、着替えを済ませ深いため息をつくと、またすぐに闇金のことが頭を駆け巡ります。
「やばい・・どうする・・・どうする・・・」
いくら考えても、解決策は思いつきません。改めて考えてみると10日に一回の利息は3件あわせると4万5千円。ということは、30日で13万5千円もあります。とにかく闇金をなんとかしなければこの先どうにもならない状況に改めて驚愕し、落胆しました。
しかも、他にも支払いはたくさんあります。洋平に2万円、ミィに3万円の借金、消費者金融の支払い、家賃の滞納、光熱費の未払い、携帯代の未払いなど、仮に闇金の借金がなくてもほぼ、破綻の状態です。
私は考えることを諦めました。全てを丸く収める方法は何一つ残っていません。
そして改めて恐怖を感じます。これは闇金への恐怖とは別の恐怖です。自分というのが全て終わってしまう恐怖でした。
そして、財布を改めて確認するとほとんど無いお金を見て、更なる絶望を感じます。そして今の状況が変わらなければ、この絶望がこの先さらに続くと思い、言いようのない恐怖に体全体が支配されました。
「ただいまです!今もどりました!兄貴すいません。半額弁当売り切れてました。それでうまそうな弁当屋見つけたんでそこで買って来たっす。850円です」
「・・・お、おう。お釣りあるか・・・?」
「あ、大丈夫っす。えーと150円」
「・・・」
「兄貴、早速食いましょう。メチャうまそうですね。この弁当屋どうして今まで気付かなかったんだろう?」
この時ばかりは洋平に対して腹が立ちました。しかし洋平に悪気はありません。
これで残り3日間、千円ちょっとで乗り切らなければならなくならないのです。それを考えると改めて危機感が全身を支配します。
洋平を見ると美味しそうに弁当を頬張っています。私はそれを見て、自分が情けなくなってきました。洋平はこの苦しみと恐怖は感じたことがないでしょう。それが羨ましくもあり、憎くもあり、なんともいえない気持ちになりました。そしてこんな状態の自分を何とか悟られまいとする、ちっぽけなプライドに心底、疲れています。
この時、最後に食べたエビフライは、全く味がしませんでした。
不安と安心
「いやぁ兄貴、何だか長いようで短い出張でしたね今回」
「そうだな」
「だけど・・・今回、一件も見込み客なかったですわ・・・怒られますよね、おれ・・・」
「大丈夫だよ。よくやってたよ、洋平は。まぁオレがちゃんとフォローするから大丈夫」
「マジでお願いしますよ・・・」
洋平は、少しテンションが下がっていました。そして結果を出せていないことに不安を感じています。営業は結果が全てです。当然、結果がでなければ会社からは、それなりのお咎めは覚悟しなければいけません。
この時の洋平は結果が出ないことにテンションが下がっていたのではなく、出張が終わり会社に戻った時に怒られることを想定して、テンションが下がっていたのでしょう。
しかし、私からすればたいしたことはありません。私が恐怖してテンションが下がる相手は闇金です。もし支払いが滞れば何をしてくるかわからない相手です。下手をすれば命の危険もあるかもしれないと思っていました。
部屋の掃除を済ませ、ウィークリーマンションを出ます。柔らかい太陽の日差しが暖かく包んでくれましたが、相変わらず私の体を支配している恐怖や不安は消えません。
「気をつけて帰ろうぜ」
「はい、了解しました!」
「じゃぁ、会社で」
「はい・・・」
「大丈夫だよ。元気出せや」
「いやだな・・・会社戻りたくないな・・・」
洋平は、会社に戻った後に今回の出張の結果が出なかったことで怒られることを想像して落胆していました。恐怖は想像してそれに支配された時にさらに増幅して体に張り付いて離れなくなります。私は闇金への借金で痛いほどそのことがわかっていたので、洋平を見てかわいそうな気持ちになりました。
「なんとかフォローしてやるか」
車を運転しながらぼんやりそんなことを考えていると、少しだけ気分が楽になりました。どうにも出来ない自分の恐怖や不安が、洋平が恐怖や不安を感じてテンションが下がっているのを見ると自分だけ不幸ではない気がして楽になりました。
他人の不幸や苦労は、人を安心させる効果があります。それは、その不幸が大きければ大きいほど効果が高く安心できるのです。
しかも洋平が会社に戻れば、私はフォローします。今回の出張では、比較的大きな見込み客を2件取っているため、私がフォローすれば洋平を擁護できるはずです。洋平は私に感謝するでしょう。そんなちょっとした優越感が私を少し楽にします。
そんな人間が持つダークな部分。認めたくなくても誰しも持っているそんな感情を、私は気付かず、助けを求めてきている洋平の気持ちを利用して、自分を支配する恐怖や不幸を掻き消すために利用しました。
会社に戻ると、早速2人は呼ばれます。
「まずは、2人ともお疲れさん。で、地域的にはどうだ?今後も新規開拓いけそうなところかな?」
「はい、他社もそれほど参入している感じはないですしまだまだいけるはずです」
「そうか」
「はい、私の見込み客の2件のような意識が高い会社は少ないので今後、それに気付いたり浸透すればいけると感じました。それもあって下田(洋平)は、目に見える結果は出ていませんが、サービスの落とし込みを中心にやっていますので、客には意識させることに関しては上手くいっているはずです」
結果が出なく、うつむいてなにもしゃべらない洋平を横目に、私は饒舌に営業報告をしました。もちろん洋平のフォローも忘れません。
「そうか、わかった。もう、あべくんは戻っていいよ」
「はい、失礼します」
不安そうな洋平を横目に、自分の部署へと戻りました。「もしかすると多少は、詰められるかもしれないなぁ・・・」とも思いましたが、こればかりはしょうがありません。営業の仕事は結果が全てです。
自分の席に着き、書類をまとめていると10分もしない内に洋平が戻ってきます。顔を見ると先ほどの不安そうな顔はありませんでした。
「いやぁ~兄貴ありがとうございます。兄貴のフォローのおかげでそんなに怒られなくてすみましたわぁ。まじビビってました。30分は覚悟してましたもん」
「そうか笑、よかったな」
「あざーっす。どうします兄貴、今日打ちにいきます?」
パチスロのストップボタンを打つ仕草をし、緊張感から解放された顔で聞いてきます。
「いや、今日は遠慮しとく。彼女くるから」
「マジすか、まぁ~そうスよね~。それじゃすいません、先に上がります!」
「おう、お疲れ」
「お先でーす」
洋平を羨ましいと思いました。私の恐怖や苦しみや緊張感はどうあがいても解放されることはありません。
携帯を見ると、ミィからメールが来ています。
「こっちもうすぐ終わるよ。まさくんはどう?」
「こっちも、もうすぐ終わる。迎えにいくよ」
「わかったー!いつもの場所でまってるね」
彼女の喜びは、何気無いメールからも伝わって来るようでした。しかし私の心は沈んだままです。もう、行き詰っていることを考えると、心は晴れません。この後の彼女との、優しくて楽しい時間も、私の中にある借金などの不安や恐怖が全て掻き消してしまっています。
無意識の内に携帯電話のメモ帳を開き、打ち込んだ文字が目に入ってきました。
”おれはこのさき、どうなってしまうんだろう”
36話終了です。
借金がここまで来ると現実と向き合えば八方塞の状況に絶望してしまい、現実から目をそむければ状況はますます酷くなっていきます。
冷静に考えると、消費者金融などの借金は弁護士等に相談するなどがベストですが、わたしの相手は闇金です。当時の闇金の取立ては凄まじく、社会問題化するほどになっていました。当然私はそのことを知っていましたし、お金を借りに行った時の、普通ではない雰囲気が身にしみてわかっています。さらに闇金には弁護士など、まともな方法論は通じないだろうと感じていました。
そして、ここまでの状況になり「どうにかしたい」「逃れたい」と思っても、私のパチンコ依存症、パチスロ依存症は強力です。弁護士に介入してもらうともう消費者金融からは、借金ができません。そうなるとパチンコで負けた時に限度額ギリギリまで借金できなくなります。それが弁護士に借金の相談に行くのを躊躇させました。
どんどん状況が悪くなってきました。しかし本当の絶望はまだ先です。私はこの先どんな状況になっていくのでしょう。
まだまだ続きます。
37話↓
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