前日のパチンコでの負けの中、抜け殻のようになっていた私に新たに携帯電話がストップするという悲劇?が起こります。ミィと連絡がとれなくなることを恐れた私がとった行動はわずかなお金を集め、パチンコを打ちにいくことでした。もちろん結果は負けでフィニッシュです。そして一度は全て返した闇金に再び足を踏み入れます。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
落差
「あれ?あべさんどうした?」
「はい、実は・・・またお金を貸してほしいんですが・・・」
「・・・。座れよ」
「は、はい・・・」
体の中でざわざわとした何かが全身を駆け巡りました。少しだけ残る自分の意志が抵抗をはじめます。しかしそれはすぐに飲み込まれていきました。
「なんで金がいるんだ?給料出たばかりだろ?」
「はい・・・生活費です。ちょっと足りなくて・・・」
「いくらだ?」
「3万ほど・・・」
「あべさん。わかってるだろ。ウチは10日で5割だ。返すアテあるのか?」
「はい。仕事の他に日払いでくれるバイト始めます」
「決まってるのか?」
「いえ。これからですけどあてはあるので大丈夫です」
もちろん何もありませんでした。お金を借りるためのウソです。目先のお金のためにとっさにウソをつくのには慣れていました。
「ダメだ。貸さねぇ。給料日の10日前か、そのバイトが決まってからなら貸してやる」
目の前の男は私が何も考えずに追い込まれてお金を借りに来たのを簡単に見抜きました。当然、闇金は貸さないと商売になりませんが、それを回収できないと丸々損をしてしまいます。回収できない人間には貸さないのは当然のリスク回避です。
「そうですか・・・」
私は事務所のドアを開け階段をトボトボ下りました。ここにくればお金が手に入ると思っていました。しかし私の無計画さを見抜かれそれを遮断されます。
最初は改めて闇金から借りることに躊躇し、心のどこかで抵抗していましたが、それもなくなり今はとにかく手元にお金を手にすることを考えていました。
もっと言えば携帯電話の支払いのことも忘れていました。今はとにかくお金がない不安を断ち切りたいだけです。
「どうしよう・・・」
まだまだ給料日までは一ヶ月あります。それまで収入はありません。先ほどは思わず口に出た日払いのアルバイトを考えましたが、そんなあてはありませんでした。もちろん探せばあるでしょうが、そんなことよりも今は目先のお金です。
車に乗り込みます。幸運にも駐禁は切られていませんでした。
闇金にくれば確実にお金が手に入ると思っていた私でしたが、それを断られ、どうしたらよいかわからなくなっていました。この時、恐怖や苦しみや違和感は陰を潜めます。今一番重要なのは手元にお金があることです。
私は車を走らせました。向かう先はもう一軒の闇金”希望ファイナンス”
闇金の事務所のある近くに着き車を停めてハザードを点けます。ここでも駐禁を切られる恐怖は感じましたが、それよりも今はお金です。
事務所の前に着きドアノブを回す時、不思議と先ほど感じたざわざわした感覚はありません。
「あのうすいません」
「融資ですか?」
「はい」
「お電話くれてました?」
「いえ・・・」
「当社はじめて?」
「いえ、違います」
「お名前は?」
「あべまさたかです」
「座って待ってて」
「は、はい・・・」
そう言い残し対応した男はパーテーションの奥に消えていきます。
待っている間にパーテーションの奥から怒号が聞こえて来ました。
「だから、返せっていってんだろっゴルァ!!○△×・・・□!!!」
取立ての電話だというのはすぐに察しがつきました。自分ももしかすると同じ目にあうかもしれません。しかし不思議と恐怖は感じませんでした。今はとにかくお金を手に入れなくてはいけない気持ちが恐怖を上回りました。
いや、本当はもの凄く恐怖を感じ、帰ろうという気持ちになりましたが「普通に返済すれば問題ない」と無理やり思い込み恐怖を掻き消しました。
その怒号が止んだ後、少しすると奥から男が出てきて目の前に座ります。
「あべさん、どうした?返したばかりだし給料出たばかりだろ?」
「はい、実はちょっと前に友人の車をぶつけてしまいましてその修理代を返さなくてはいけなくて・・・」
もちろんお金を借りるための口実です。
「修理代?本当かそれ?」
「は、はい!」
「貸すのはいいけど、返せるのか?ジャンプするにも10日後だぞ」
「はい。来週に出張で立て替えているお金が会社から戻ってくるのでそれで返せます」
今度はウソを変えました。お金が入ってくるアテがあれば貸してくれるはずです。
「・・・わかった。いくらだ」
「3万ほど」
「ちょっと待ってろ」
男がパーテーションの奥に消えて行くのを見ながら私は安堵に包まれました。やっと手元にお金が手元に入ります。しかし当然ですがこのお金は借金です。しかも10日で5割という、とてつもない暴利の借金。また自ら地獄に足を踏み入れました。
男が戻ってきました。3万円を目の前に置いた瞬間目つきが変わりこう言います。
「わかっていると思うが、絶対逃げるな。必ず返せ」
「は、はい。わかりました」
事務所を出た後、急いで車に戻ります。3万円を手にした瞬間から駐禁のことが気になっていました。安心と恐怖、そして安心と不安のギャップで普通の精神状態を保てていません。
車に戻ると車は無事です。私は再び安堵を感じます。冷静になった私はすぐに携帯ショップに向い料金を払い終え一息つきました。
そしてミィにメールを入れます。
「ミィいつくるんだ?」
「まさくん。お疲れ様。明日仕事帰りいくよ~」
「わかったよ。忙しいだろうけど無理するなよ」
「はーい。ありがとう。まさくんもね」
彼女に優しいい気持ちになれるのはこんな時です。
気がつくと夕方になっています。ほぼ仕事をしていないのにとても疲れていました。
「この時間じゃもうどこも訪問できないか・・・」
会社に戻り営業日報を適当に仕上げ、帰宅の準備をします。いつもとは違う疲労感が私の体を支配します。
仕事での正当な疲労感ではなく、生産性の全く無い、虚構の疲労感がなぜか心地良く感じました。
恐怖と安心感、不安と安心感・・・。そのジェットコースターのような大きな落差には、不思議な快楽があるのです。
しかしこの快楽には絶対に溺れてはいけません。私はこの先イヤというほどそれを思い知らされるのでした。
新たな違和感
会社に戻り、嘘の営業日報を仕上げました。お金を手にして束の間の安心感を手に入れると今度は仕事をサボっていた罪悪感と、成績を残さなきゃという使命感で追い込まれていきます。
私はサボった分を取り返すべく、念入りに営業計画を立てます。2日間ほとんど仕事をしていませんでしたが、何とか取り戻せそうかなと感じました。気がつくと20時を回っていて事務所にはほとんど人は残っていませんでした。
「腹減ったな・・・」
私は一旦手を止め、会社近くのコンビニにカップラーメンを買いに出ました。コンビニに入った時に、パチンコ雑誌が目に入り手に取ります。一瞬すぐに仕事を切り上げて打ちに行きたくなりましたが、翌日からの営業のことを考えると、途中で切り上げることは賢明ではないと思い必死で我慢します。
そこからはパチンコ・パチスロのことが気になり集中できませんでした。いつもならすぐに片付く仕事も倍近い時間がかかっています。
「ふう・・・終わった・・・」
時計を見ると22時を回っていました。さすがにこの時間からは打ちにいけません。私はしょうがなく車を自宅に向け走らせました。
自宅に着いて玄関を開けると一通の封書が目に入ります。見るとアパートの管理会社からの家賃の督促でした。
そこには家賃の未納分を2週間後までに支払わないと強制退去になる旨が書かれています。なんどか会社にも連絡をしてきていましたが私は無視し、管理会社には連絡を入れていませんでした。そのため管理会社もこのような判断になったのでしょう。
私は事の重大さを感じ、不安が全身を覆い尽くしました。しかし未納の家賃を支払うお金はありません。2か月分で8万円という金額を払えるわけがありませんでした。
翌日、営業に回る前に管理会社に電話をします。
「あ、もしもし○×アパート101号室に住んでいる、あべまさたかと申します。家賃の支払いの件なのですが・・・」
「あべ様ですね。少々お待ち下さい。担当と代わります」
「お電話かわりました金村と申します。あべさん家賃のお支払い2か月分滞っているようですがどうされました?」
「は、はい、すいません。ちょっと色々ありまして・・・」
「ご事情は色々あるでしょうが、こちらといたしましてもお支払いいただけないと規約上、督促にかいている通り強制退去ということになります」
「そこを何とか待ってもらえないでしょうか・・・来週までに1ヶ月分払いますので」
思わず口にでたウソでした。なにもアテはありませんでしたが、一週間猶予を持ちその間になんとかしようと考えました。
「といわれましても・・・アパートのオーナーさんの意向もありまして未納分支払ってもらわないと無理です」
「そうですか・・・」
その後もしばらく待ってほしい旨を伝えなんとかしようと交渉しましたが、管理会社はOKを出しませんでした。しかも2週間以内に入金が無い場合、鍵も交換して自宅に入れないようにすることも伝えられました。
私の中に新たな違和感が生まれました。まともに生きていけない恐怖と不安です。人間が生きていくための最低限の衣食住のうち「住」がなくなります。
しかも鍵を交換されると自宅に入ることができません。そうすると寝る場所もなく、風呂にも入れず着替えることも出来なくなるのです。
ある種、闇金とは違う不安と恐怖を感じました。全身の力が抜けていきます。全ての気力がなくなっていきました。
その後営業は回りましたが、せっかくサボった分を取り返すべく立てた営業計画もままならずにほとんど中身の無い営業でした。
私は真っ先にミィのことを考えます。このことを知ったら彼女はどのように思うかを考えると大きな絶望感が体を支配しました。家賃を払えないような人間を変わらず好きでいてくれるでしょうか。ガスも水道も未払いです。このまま払わずにいればストップするのは時間の問題でしょう。ミィのことを失う気がして恐怖を感じます。
本当のことを言うと、この時ミィのことを思い、恐怖したのではありません。ミィに対して必死で演じていた自分がばれてしまうのが怖かったのでした。
この時私が失いたくなかったのは、私が持つちっぽけなプライドとウソの自分です。
気がつくとメール受信のランプが光っています。
「まさくん、おつかれさま!今日なにたべたい?」
私は返信せずに携帯を閉じました。
こんな時、私は彼女にも自分にも優しくなれません。
43話終了です。
せっかく闇金と手を切ったのに、また借りてしまいました。苦しみや恐怖から逃れようとすればするほど追い込まれてしまいます。恐怖や苦しみや不安から逃れるためにまた。恐怖や苦しみや不安に飛び込んでしまうというパチンコ依存症・パチスロ依存症特有の心理状態です。
そしてアパートを強制退去されそうになっているという新たな問題が出てきました。しかもこの問題を解消する術はありません。衣食住という普通の生活を失ってしまう不安と恐怖はかなりやっかいになります。このブログでは何度も書いていますが、パチンコ依存症・パチスロ依存症が求めているのは興奮や楽しさではなく「安心感」です。
まだまだ続きます。
44話↓
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