改めて出来た2件の闇金の借金合計は6万円。どんなに決意してもやめられないパチンコ・パチスロ。冬が迫っているのに抜け出せない車上生活。どんなにもがいても抜け出せないアリ地獄のような現実になす術なく飲み込まれています。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
季節の訪れ
いつものようにバイトが終わり、朝風呂に向かいます。財布の中にはいっている2万7千円の現金が危機感を曖昧にしました。
その曖昧になっている危機感の元は闇金のはずなのに、それを曖昧にしているのはセーフティーネットと勘違いしている闇金の存在です。
湯船に浸かると無意識に感じている危機感や数字が上がる気配のない営業のプレッシャーがスーッと抜けていきます。
腐敗した食品や油の臭いの中で感じる屈辱的な感情も、長時間の中腰での作業で感じる太ももの筋肉の痛みや関口への不快感も全て消えていくような気がしました。
髪を乾かし外へ出ると、冷たい空気が全身を覆います。
この時、先ほどまで感じていた気持ちが一気に入れ替わりました。
現実の状況が、ネガティブな感情になり私の中にある危機感を呼び起こすのです。
「早く、どうにかしなきゃ・・・」
答えが出る前に後部座席で横になると、危機感と眠気に交互に覆われます。それは、時々高くなるアイドリングのエンジン音にリンクしていました。
携帯電話のアラームが鳴る3分前に目が覚めます。乾いた喉が張り付き、とても不快に思って半分のこっていたペットボトルの水を一気に飲み干します。
すぐに公園へ行き、寝グセを直そうと水のみ場に水を汲みに行くと衝撃の光景が目の前にあらわれました。
「マジか・・・」
”冬期間使用中止”
の看板が貼られ、水飲み場は藁で覆われていました。
氷点下になる冬の期間は凍結防止のため公園の水飲み場は全て封鎖されるのです。まだ、凍結の心配がある気温ではありませんが、毎年11月にもなると続々と外にある水のみ場は同じ措置がとられて行くのでした。
いよいよ車上生活にも支障が出てきていて危機感が増してきた私は、出来るだけ何も考えずコンビに向い、ペットボトルの水を購入します。
いつもは500mlですが、2Lを購入しました。
また改めて公園の駐車場に戻り、顔を洗い歯を磨き寝グセを直します。一息つくとさらに危機感が襲ってくるのがわかります。
いつもお金がない時に感じる危機感にプラスして、新たな危機感がはっきりと芽生えました。
命の危機感です。
このままでは、生きていけないかもしれないという危機感は、さらに私の心を蝕んでいきます。
生きていくためには、部屋が必要です。
今までも気付いていましたが、暖かい季節が全てを曖昧にしていました。
今、そこにある危機感。
本当は、姿を現しながらゆっくりと近づいてきていましたが、私はそこから目を背け気付かないフリをしていただけでした。
不幸やネガティブな事柄は自分の気付かないところで育っていく。
そして目を背けたネガティブは、自分が思っている以上に強大に膨らんでいくのでした。
透けて見えた悪魔
その日の営業が終わり会社に戻ると急いで終了業務を終えます。佐々木さんの席に視線を移すとパソコンの電源が落とされていて、すでに帰ったようでした。
タイムカードを押し、車に乗り込みエンジンをかけます。
一日中、感じている危機感がとても不快で早く取り除きたい気持ちになりました。
コンビニに立ち寄り、雑誌のコーナーに向かいます。
そこで手に取ったのはパチンコ・パチスロ雑誌ではありません。
気がつくとマンション・アパート賃貸情報雑誌を手に取りレジへ向かっていました。
店を出た後、すぐに袋から取り出しページをめくります。
「どんなところでもいいから部屋を借りたい・・・」
と、考えて何となく費用を計算しました。
家賃が3万円としても敷金や礼金、前家賃など考えると最低15万は必要でしょう。
今の私には到底、不可能な金額です。
どう考えてもすぐには部屋を借りることは不可能でした。
とにかくお金が必要です。
しかしバイトをこれ以上増やす考えは浮かびません。
私は無意識の内に車を走らせていました。
ネオンが光るいつもの場所です。
人は追い込まれた時、抜け出したい時、何とか答えを導こうとします。
私はパチンコ依存症・パチスロ依存症。
全てのアンサーはこの場所だけでした。
店内に入りいつものようにパチスロの島を見渡すと、危機感や不快な気持ちは消えてなくなります。
コインを入れ、レバーを叩きたい感情だけが私の体を支配します。
リールの回転や液晶、ストップボタンを押す行為に集中している時、私を縛り付ける全ての違和感から自由になれました。
しかし、それは決して至福の時ではありません。
至福を感じることが出来るのは、出玉を箱に詰める時や店内から少し離れた換金所の小さな穴からお金が出てくる時だけです。
店を出た時、全てが無になっていました。
魂が抜けたように店を出ます。
至福を感じることが出来る出口とは反対の出口から、外に出ました。
外の空気は、刺す様に冷たいはずですが、体をすり抜けていくように感じます。
車に戻りドアを閉め、エンジンキーを回すと、さらに冷たい空気がエアコンの吹き出し口から体に当りました。
グレーの空を見上げながら振り返ります。
投資金額2万5千円。当たりは最後に打った羽物の当たり1回だけです。その出玉もあっという間に飲まれました。どんな立ち回りをしたかも記憶に残っていません。
また、財布の中には小銭だけ・・・。
つい、さっきまで私を安心させていたお札は、キレイにサンドに飲み込まれていきました。
そして空腹と共に強大になった危機感は改めて私の全身を駆け巡ります。
部屋どころか、その日の食事すら危うい状況です。
私は絶望と共にこう決意します。
「もう、パチスロはやめよう・・・」
毎回浮かんでは消えるその決意は、さらに私の心を沈めていきました。
翌朝、どんよりとした頭の痛さで目が覚めます。鼻をかんでも鼻で息をすることができませんでした。
「あれ?風邪でもひいたかな・・・」
ペットボトルの水を飲み干し、携帯電話を開くと10時を過ぎていました。
気分も体調も最悪です。胃の中に何も入っていない感覚がさらに私を追い詰めていきます。
「なんか食いたい・・・」
何も満たされないその感情が私の中から全てを奪っていくようです。
気がつくと私は携帯電話の連絡先を開き、ダイヤルをプッシュしていました。
「はい、希望ファイナンス」
「あ、あのう先日お借りした、あべまさたかです」
「あべさん?どうしました?」
「あの・・・追加で融資お願いできないかなと思いまして・・・」
「確認します。一旦、電話を切って10分後に電話下さい」
「は、はい・・・」
いつもとは、違う対応に少し戸惑います。しかし言われるがままにするしかない私は10分待ち、改めて電話をしました。
「はい、希望ファイナンス」
「あ、あの・・・先ほど電話しました、あべと申します」
「あ、あべさん。これから来れますか?」
「は、はい。すぐ伺います」
すぐに闇金の事務所に向けて車を走らせました。事務所に来いということはお金を貸してくれるだろうと考えます。
私は一気にテンションを回復させました。これで空腹を満たせるはずです。
いつもより静粛な雰囲気を感じながら、階段を登ります。今日は土曜日なため闇金以外の普通の会社は、休みのところが多いからでしょう。
ドアを開けると、いつもは受け付けをしている男性がそこにいました。
「いらっしゃいませ」
「あ、すいません。先ほど電話しました、あべです」
「あ、あべさん。座って」
「はい・・・」
「いつもの担当は土曜日、休みなんで」
「そうなんですか・・・」
「確認したところあと2万までなら融資できます」
「はいっ!わかりました」
「そのかわり・・・」
「えっ?」
なんだかイヤな予感がしました。
「返済日は前回の分と同じ日になりますけど良いですか?」
嫌な予感は的中しました。前回借りた分と返済日が同じなら、今回借りる2万円の利息は4日で5割ということです。一日あたり一割以上の利息・・・。
その法外すぎる利息に驚愕しました。
「イヤなら融資できませんが」
「あ、あの・・・ということは利息も・・・」
「同じ5割です」
さすがの私もお金を借りることをためらいました。私の中の防御本能がストップをかけています。当然、借りるべきではないでしょう。
しかし、目の前に見える2万円を見ると、私の判断力は簡単に乱れていきます。
「わ、わかりました・・・。と、いうことは・・・」
「来週の水曜日が前回の分と併せての支払日。ジャンプするなら2万5千円。完済なら7万5千円」
支払日に2万5千円入ってくる予定はありません。火曜日のバイト代も1万5千円です。
私の中にある、苦しさや不安、危機感は大きなうねりをあげながら体を駆け巡っています。その中で「借りてはいけない」という気持ちが弱々しく抵抗していました。
いつもとは違う、目の前にいる男から透けて見える悪魔がニヤリと微笑み、私を飲み込んでいきます。
「どうすんの?あべさん」
82話終了です。
不安や苦しみ、危機感は正常な判断力を奪います。当然、闇金に駆け込むような人は、不安や苦しみ、危機感でいっぱいの人ばかりです。私もその内の一人でした。10日で5割もかなりの暴利ですが、さらに悪条件を突きつけてきます。悪魔のようなこの条件も闇金にとっては正義なのでしょう。私は只、心の中で弱々しく戦いながら受け止めるしかありませんでした。
まだまだ続きます。
83話↓
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