闇金の返済の為に闇金に借金をする。闇金の自転車操業になってしまいました。何とか支払いを済ませましたが、明日にも支払いがまっています。返済すると手元に残るのは、僅かなお金のみ・・・。給料日までもまだ程遠いです。大きな不安の中、たどり着いた場所は・・・。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
想像力と恐怖
ネオンがキラキラと光るいつもの場所。
無意識の内にたどり着いた自分に少し恐ろしくなります。
軍資金は1万7千円。
しかし、1万5千円は明日、闇金に支払わなければいけない絶対に手を出してはいけないお金です。
勝てる保証はありません。むしろ負ける可能性の方が高いでしょう。
さすがの私も躊躇します。
魂が抜けたような脱力感を感じました。
ただ、明日の支払いが終わると手元にはお金がほとんど残っていないのです。給料日まで生活するお金がありません。
これ以上闇金から借金するのも難しいでしょう。
勝負をかけるには”今”しかないのです。
この状況に身震いしました。
いつもとは違う感覚が全身を包みます。
心のどこかでは、「絶対に打ってはいけない」という思いをしっかりと確認していました。
それでも、私は生粋のパチンコ・パチスロ依存症です。
入り口に向かって歩む足は止まりませんでした。
イベントも何もない、平常営業の店内はあまり客がいません。台はある程度選べる状態です。
データランプの当たり数、回転数を見てもあまり回されていないのがわかりました。
店内を歩いていると、先ほどまで僅かに残っていた、恐怖や「打ってはいけない」という気持ちは影を潜めます。
早く打ちたくてたまらない気持ちが心の底からわいてきました。
結局座ったのはいつものキングパルサー。
選んだ根拠はありません。
ビッグボーナス2回、レギュラーボーナス1回、256ゲームで捨てられている台でした。
単純に両隣が空き台というだけで何となくその席に座ります。
絶対に負けてはいけない勝負には相応しくない、選択でした。
パチンコ・パチスロが持つ魅力、いや魔力には、恐怖や苦しみを掻き消す力があるのです。
サンドに札が投入され、コインに変わった時全てが自分の中から消えた気がして目の前の筐体に集中してしいます。
投資3千円目。台の演出が騒がしくなってきます。
「おっ?これは、あるかな」
そして、その数ゲーム後には”WIN”の文字。
「よし!」
レギュラーボーナスですが、幸先の良いスタートを切れました。このまま連チャンも期待出来るはずです。
ボーナス終了後、すぐに演出が頻発します。
「よし!もう一回カエル出て来い!」
思いを込めてレバーを叩きました。
”ゲコッゲコッ”
ドットにはカエルが登場です!
ここで私の頭の中は、大量の「脳汁」が放出されました。
次ゲーム、レバーを叩くと”WIN”の文字が表示されます。
「たのむっ!ビッグでっ!!!」
緊張の中、7図柄を目押しすると・・・。
待望のビッグボーナスです!!
「よしっ!勝てる。調子いいっ!!」
ボーナスが終わり、次の連チャンを期待してBETボタンを押します。というよりも何も根拠無くまた128ゲーム以内にボーナスが引ける感覚になっていました。
その感覚のまま、どんどんとゲームを消化していきます。気がつくと連チャンゾーンである、128ゲームまでもうすぐでした。
「2,2連・・・?マジかよ・・・」
演出が何も出ないまま、あっさりと128ゲームを超えます。この先は天井の1280ゲームまで、何ゲームで当るかわかりません。
「だ、大丈夫・・・256ゲームまでには当るはず・・・」
そんな希望的根拠も空しくあっさりと、第2のゾーンである256ゲームを超えます。下皿のコインはほとんどなくなっていました。
しかし、初当たりを少ない投資金額で引いた為、まだ少し心の余裕は残っています。
そんな思いも束の間少しだけ残っていた持コインも全て飲まれ、追加投資がはじまります。
「だ、だ、大丈夫512ゲームまでには当る!・・・はず・・・」
財布の中から札が消えるたびに、隠れていた恐怖と不安が徐々に顔を出してきます。闇金の支払いのことも頭をよぎってきました。
残り3千円になった時、完全に私の体は恐怖と苦しみに支配されます。もう逃れることはできません。
明日の闇金の支払いも出来なければ、給料日までの生活費もないのです。
巨大な絶望感につつまれました。残金で逆転できる保証はありません。雰囲気的には恐らくボーナスを引くことは出来ないでしょう。
しかし、ここで投資が止まることはありませんでした。どちらにしても闇金の支払いはできないのです。であれば僅かな望みにかけるしかないでしょう。
全身が恐怖に飲み込まれると同時に意識を無にします。耐えられないネガティブは全て受け入れ同化する。この頃覚えた処世術の一つです。
魂が抜けた脱力感でレバーを叩きます。札がコインに変っていき、最後の千円分のコインが下皿に流れ込みました。
遠くに振り絞るような叫び声が聞こえてきます。
「たのむっっ!!なんでもいいから当ってくれーーーっ!!!」
数分後・・・。
私は、車がまばらに停まっている、駐車場を歩いていました。
カラス
時計を見るとまだ21時半。
あっという間の出来事でした。
もう、後悔すら沸いてきません。
そして、少しずつ闇金の支払いのことが頭を埋め尽くし始めます。
全身が危機感でいっぱいになってきました。
「やばい・・・。どうしよう・・・」
いくら、考えても支払いのお金を用意することは、不可能でした。
絶望感のなか、明日のことを想像します。
闇金には、午前中に支払いにいくと連絡してしまいました。当然お金がないので行くことはできません。
「いったいどうなってしまうのだろう・・・」
いつも行く、健康ランドの休憩室にあった新聞で見たニュースが頭をよぎります。
「違法な取立て、40代男性自殺」
「法外な利息の闇金融社会問題化」
「身元不明の男性の水死体。闇金融に多額の借金」
・・・。
自分がどうなってしまうのか想像しただけで気が狂いそうになります。
意味もなく携帯電話を開き、改めてお金を借りることが出来そうな人を何度も探しました。もちろん目処はたちません。
一瞬、佐々木さんのことが頭に浮かびます。思わずメールの作成画面を開きました。
しかし、送れませんでした。
私のちっぽけでウソで固められたプライドが邪魔したのです。
佐々木さんには、「デキる男」でいたいと思ってしまします。
本当は、究極的に危機的状況ですが、意味のないプライドを優先させてしまったのです。
同時に闇金の男が私を恫喝するところがイメージされ頭を埋め尽くします。恐怖で気絶しそうでした。
「オレ、明日、生きていられるんだろうか・・・」
想像力はさらに恐怖を増幅させ、完全に私の心と体を支配してしまいました。
もう、考える気力もなくなってきます。
窓の外を見ると、久しぶりに月と星がとても綺麗です。
私は、全てを諦めました。
一睡もできないまま、会社に向かいます。
相変わらずの恐怖と睡眠不足で、ボーっとしていました。
ほとんど営業の準備をせず、会社を出る時一瞬、佐々木さんと目が合います。すぐにお互いが視線をそらす時に思わず頭の中でつぶやきました。
「ありがとう。佐々木さん。もう会えないかも・・・」
車に乗り、すぐに公園の駐車場にむかいます。
車を停めた後、バイト先に電話をしました。
「あ、おつかれさまです。あべです」
「おぅ、あべくんどうしたのかね?」
「はい、申し訳ありませんが、急に地方の出張がはいりまして本日お休みいただきたいのですが・・・」
「そうか・・・。しょうがないね。土曜日は大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です」
「わかりました」
「失礼します」
この後、自分がどうなるかわかりません。無断で休むと迷惑がかかります。
これは、私がどんな状況でも最低限の社会人としてのマナーを守れる人格だったからというわけではなく、こんな状況でも、社会人としての最低限のことを守ることで自分を何とか維持しようとしていただけでした。
何だか不思議な感覚です。
恐怖をしっかり認識しているのに、気持ちはフラットでした。
気がつくと睡魔がゆっくりと体を包みます。意識が少しずつ遠のいていく感覚。
深い眠りに入った後、ヒーターの熱でぐっしょりと掻いた汗が不快で目が覚めました。
慌てて携帯電話を開くと、数十件の着信履歴が鬼のように溜まっています。時間を確認すると13時を回っている所でした。
着信履歴はすべて闇金です。
寝ぼけてだるい体に一気に緊張感がはしります。
「や、ヤバい・・・」
12時半から3分おきに何度も電話をしてきたようです。
”た、たすかりたい・・・”
そう思った瞬間、改めて体に危機感が生まれ、全身が恐怖に支配されます。
しかしどうして良いかわからずパニック状態になりました。
「冷静になれ、冷静になるんだ」
そう、なんども自分に言い聞かせます。
まずは、会社このことが気になりました。もし闇金が会社に電話でもしたら、私が闇金から借金をしているのが瞬く間に広がってしまうでしょう。
もちろん、嫌がらせなどされれば私は会社にいられなくなりますし、何よりも今まで苦労して積み上げてきた「デキる男」像が全て崩れてしまうのが何よりも怖くなりました。
パニックでグチャグチャの頭で必死に考えます。
「ま、まずは、時間を引き延ばさなきゃいけない」
確かに昨日の電話では午前中に行くと伝えましたが、本来の返済日は今日です。今日中に返済すれば大丈夫でしょう。
お金を用意するにも時間が必要です。私は闇金に電話を入れることを決意します。
リダイヤルを押す指は、微かに震えていました。
「はい、地獄金融」
いつもの男でした。
「あ、あの・・・あべまさたかです・・・」
「おう、午前中に来る約束だろっ!ゴルァァ!」
受話器を耳から離してもその怒号が聞こえてきます。さらに緊張感が高まりました。
「は、はい、す、す、すいませんっ、あのどうしても抜けられない仕事がありまして」
「おいっ、おまえホントかコラ。ちゃんと返す金あんのか?」
「は、はい。ホントです。あります」
恐怖のあまりウソをつきました。当然お金はありません。
「この野郎。ウソだったら会社行くからなゴルァ」
「は、はい・・・」
「で、何時ならこれるんだ?」
「いや・・・実は今日はホントに手を離せない仕事でして、もしかすると今日いけないかも・・・」
「ふざけんな。ぜってぇ認めねぇ。必ず今日持って来いっ!!」
「ハ、ハイっ・・・」
恐怖のあまり「ハイ」と返事をしてしまいます。
電話を切った後、しばらく放心状態が続きました。とりあえずの危機は脱しましたが、このまま返済に行かなければきっと私の想像以上のことが待っているでしょう。
しかし、どんなに考えても金策は生まれません。
「チクショウ・・・ホント、どうすりゃいいんだ・・・」
窓の外に見えるゴミ置き場に、カラスが群がっています。私は闇金の恐怖に怯えなくて良いそのカラスを羨ましく思いました。
87話終了です。
闇金は、絶対に返済の期日や時間を延ばすことを許してくれませんでした。そして精神的にも大きく追い込みをかけてきます。この時点で万策つきている私が出来ることは、恐怖や苦しみを先延ばしするだけです。そして恐怖や苦しみは先延ばしすればするほど大きくなって降りかかってきます。
この時のことを思い出しながら書いていると、「よく生きてたな・・・」とゾッとします。
次をお楽しみに。
まだまだ続きます。
88話↓
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