僅かに見えた希望の光も塞がれ、絶体絶命のピンチを迎えます。そして最後の望みで贈ったミィへのメール。この後、どうなるかは「神のみぞ知る」というところでしょう。
私の”悪運の強さ”が試されます。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
波打つ龍
「オマエ、ウソついているだろ?」
そう告げた瞬間、空気がピーンと張り詰めます。
ウソをつくことに慣れていた私ですが、ウソを見破られることにはなれていませんでした。
「あ、い、いや・・・」
頭の中は真っ白になります。
言葉を返したくても、なんて言っていいかわかりません。
「携帯、見せろ」
「い、いや、あの、その・・・」
さらに私は追い込まれます。
携帯を見られるとウソがバレてしまうでしょう。
また、ミィの名前も見られてしまうことになります。
関係ないミィの事を巻き込んでしまうことに恐怖を感じました。
私ばかりではなく、ミィにも何かされるかもしれません。
それだけは何とか避けたいと思いました。
「早く、よこせ」
「は、はい・・・」
しかし、拒否できる状態にはありません。
私は恐怖に支配されながら、恐る恐る携帯電話を手渡しました。
”もうだめだ・・・。終わった・・・。”
男は一瞬私を鋭い視線で睨んだ後、携帯電話を開きます。
「なんだ、オマエ、ここに来るのは女か?」
「あ、は、はい・・・」
「彼女か?」
「い、いえ。単なる友達です」
私はまた、ウソをつきます。
もし、彼女だと告げれば、ミィを利用されると思ったからです。
マンガや噂で聞くように、最悪、風俗にでも売られると思いました。
これまでは、全く実感したことのないことでしたが、闇金の男を見て、ましてやこのような状況であればありえると感じてしまいます。
男はじっと私の目を見つめ、携帯電話を閉じると、すぐに私に返してきました。
メールやリダイヤルの履歴を詳しく見ることをしなかったのです。
どんな意図で携帯電話を見たのかはわかりませんが、数々のウソの演技がバレずに済むことに少しだけ安堵しました。
「そいつはどのくらいで来れるんだ?」
「30分くらいで来れると思います」
なんとか、この場をやり過ごすために適当にウソをつきました。
ウソというよりも私の希望です。
単なる「30分くらいで来てほしい」「こんな状況、30分くらいしか耐えられない・・・」という私の願望でした。
ミィがどこにいるかはわかりませんが、タクシーを使ってすぐに向かえば恐らく30分以内には着くでしょう。
しかし、ミィが本当に来るかは、わかりません。
今まで、さんざん私のわがままで、放っておかれたのです。
もしかすると、私の声が聞きたくてとか合いたくて我慢できなくなってメールをしてきたのではないかもしれません。
私には彼女の気持ちを考える余裕も人間性もありませんでした。
ただ、単に偶然このタイミングでメールを送ってきた彼女を助かるために利用しようとしているだけです。
私は一方的にこちらの都合を押し付けているだけでした。
それに答えるか答えないかを、勝手に「賭け」ただけです。
この時、私はミィに対して懐かしく感じたり、愛おしく感じる気持ちは沸いてきません。
それよりも心の底からこの場から逃げたいだけでした。
この気持ちを、彼女がもし気付いたら心の底から軽蔑したでしょう。
なぜか少しだけ空気が軽くなっている気がしました。
希望をもっている間は、絶望に支配されずに済みます。
「わかった」
男は、そう言うと改めてキッチンに向い冷蔵庫の中からビールを取りだし、それを一気にあおっています。
男の背中に波打つ龍の尾が、本当に生きているように動いているのがとても印象的です。
着信音
男はソファに腰掛けると、鞄から書類を取り出し、一枚ずつ確認しています。
ちらりと見えた内容から全て、”借用書”というのがわかりました。
ざっと見ただけでも100枚ぐらいの借用書です。
私以外にもこんなにもの人が闇金に手をだしているのかと思うと複雑でした。
「なんだ?」
男が威圧感を出して睨んできます。
「い、いえ、なんでもありません・・・」
一瞬緩んでいた恐怖感が、改めて全身を駆け巡ります。
こちらを見て、声を発するだけで威圧感がありました。
時間が進むにつれ、少しずつ焦りが出てきます。
まだ、電話を切ってから15分しか経っていないとはいえ、少しずつ小さくなった不安が、また膨らんできました。
静寂の時間がたまらなくなってきます。
どんな言葉でもいいから話したい衝動にかられました。
しかし、男に話しかけることはできません。
この、どうにもならないイヤな気持ちも耐えるしかありませんでした。
時間は進んでいきます。
「ミィ・・・。頼む早く来てくれ・・・」
今、何処にいるかも、こちらに向かっているかもわからない彼女に向けて願いを込めました。
”ただ、どうでもいいからこの場から逃げたい”
というヨコシマな気持ちだけで願うその気持ちは、仮に私がテレパシーを使えたとしても彼女には届かないかもしれません。
借用書を一通り見終えた男が、私を睨みこう言います。
「オイっ!来ないな」
時間は40分経っていました。
私の中で再び、絶望が大きく渦を巻き、全身を駆け巡り支配します。
「い、いやっ、もう着くと思うんですけど・・・」
言葉には全く力がありませんでした。
「オマエ、そいつホントにくるのか?」
「は、はいっ・・・」
「支払いの約束は今日中だ。間に合わないのは絶対にゆるさねぇ」
「だ、大丈夫です」
「後、何分くらいで着くのか連絡してみろ」
「えっ!?」
時計を見ると23時を過ぎていました。
「もう一度連絡してみろ。」
「は、はい・・・」
携帯電話を開き、リダイヤルを押します。
ミィは電話に出ませんでした。
無言で見つめる視線が、突き刺さります。
「で、でで電話でませんが、あれ?おかしいな・・・音、切ってるのかな?きっとタクシーの中だと思います」
上手く演技が出来ないほど焦りがピークに達しました。
必死に取り繕いましたが、普通の状態ではないことは、誰が見ても歴然です。
男は何も言わずこちらを見つめています。
無言の圧力。
恐怖の渦に簡単に飲み込まれてしまいました。
時間が5分10分と過ぎていきます。
気がつくと時計は23時30分。
ミィとの電話を切ってから1時間以上が経過していました。
この時、やっと気付きます。
ミィは私に会いたくて連絡をしたのではなかったのです。
おそらく、別れを覚悟してその思いを伝えようとメールをしてきたのでしょう。
それなのに、私は一方的にワケのわからない話をし、お金を貸してほしいと懇願したのでした。
きっと傷つけたでしょう。
最後くらいは、綺麗に終わらせたかったのにちがいありません。
私はそんな気持ちを無視して、彼女のことを利用して自ら招いたピンチから逃げ出そうとしていました。
そんな自分を情けないと思い、そして自分の送ってきた人生を心の底から悔いています。
”パチンコ・パチスロさえやらなければ・・・”
私の中にある元凶は、全て「パチンコ・パチスロ」から始まっているのです。
そして心の中で、彼女に申し訳ないと思いました。
男が携帯電話を持ち、キッチンの方に向かいます。
きっと改めて誰かに電話をして私をどうするか話をするのでしょう。
私は、もう抗うのをやめにしました。
しかし、恐怖感は消えることはありません。
どうしようもないネガティブな事柄には、抵抗せずに全てをあきらめ受け入れる。
私の処世術です。
特に支払いなどのお金のない時はそうすることで、恐怖感と不安は消すことができました。
しかし、今回ばかりは恐怖感も不安も消すことはできません。
どんなに、心を無にして、全てを受け入れようとしても恐怖感と不安はさらに大きくなっていました。
全身がガタガタ震えてきます。
「この後、何をされるんだろう・・・」
”わからない”という想像力は、より一層、私を恐怖で支配するだけでした。
男が携帯電話を開きボタンを押そうとしています。
思わず全身に力が入りました。
気がつくと、固く目を閉じています。
目を閉じると全てが暗闇です。
先ほどかすかに見えた希望の光はどこにもありません。
男が携帯電話のボタンを押した瞬間、ウソにまみれた人生は全て終わり、新たな苦しみがはじまるでしょう。
体からスーっと力が抜けていきます。
・
・・
・・・
・・・・。
暗闇と静寂を突き破るように携帯電話のランプが激しく光り、着信音が鳴り響きました。
91話終了です。
私はこの頃、失敗やネガティブなことなど、自分で対処出来ない時には(ほとんど借金のことでしたが)「いったん、あきらめて受け入れる」ということで、自分を保とうとしていました。
それまでは、それでもどうにかなったり、我慢したりすればその場はやり過ごすことができたので問題ありませんでした。例えば、ガス代を払えない時には、ガスを止められることを我慢することで、やり過ごしていたのです。
しかし。この時はどんなにあきらめて受け入れても、恐怖や不安、不快感は消えませんでした。
きっと、闇金の男になにされるかわからなかったからです。想像力で恐怖や不安が増幅し、それを押さえ込むことが出来ませんでした。
”わからない”というのは状況によっては、その人の全てを奪います。
私はこの時、イヤというほど気付かされ、自分の人生を後悔しました。
まだまだ続きます。
92話↓
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