ミィは、私の希望通りに消費者金融より20万円を借りてきてきました。これで今度こそ闇金の苦しさとはオサラバ・・・のはずです!?
私の気持ちは軽くなりましたが、ミィの心には重く黒い影が残っています。
それでも、彼女は私を信じようとしていました。
※この物語は半分フィクションですが出てくるエピソードは実際に体験したことです。
いやほとんど実話です。
名前や団体名、組織名等は仮名になってます。
読んでいて気分を害したりする場合がありますのでその辺をご了承の上ご覧下さい。
ギャップと錯覚
重く歪んだ空気が、不快でした。
お金に関する話は、ほとんどが部屋の空気を重く沈めます。
だけど私の心は「これでとりあえずの苦しみは逃れられる」
不安の一つであった、「生活できる場所」はミィの部屋に転がり込むことが出来たので、冬の厳しい季節はこれで乗り越えることが出来るようになりました。
もう、寒さの心配やエンジンをかけっぱなしにすることによる、ガソリンの減り具合も心配いりません。
後部座席で窮屈に眠ることをしないで良いのです。
そして、一番の懸念材料であった、闇金の問題をクリアすることが出来ます。
20万円という借金は増えましたが、10日に一回の支払いに困ることもなく、利息もはるかに安いです。
わざわざ、銀行に振り込みにいったり、闇金の事務所に出向く必要はなくなります。
月に1回、給料日にATMに行き、決まった金額を支払うだけでOKです。
私はとても気持ちが軽くなりました。
いや、これは錯覚です。
私は、支払っていない家賃や自分の消費者金融などで200万円近い金額を借金しています。それにプラスして、ミィが借りてくれた消費者金融の借金が20万円です。
契約書を見ると、年率29.20%、元金スライドリボルビング方式と書かれています。
それを見て、私は意味がわからず、「払ってる内に無くなるだろ」と軽い気持ちでいました。
普通で考えると、毎月の支払い総額は結構な金額です。
給料から考えると、かなりヤバイレベルでしょう。
それなのに私は、「全てが大丈夫。これで普通の生活ができる」と浮かれていました。
私は”普通”になったのではなく、単純に、「闇金」がなくなっただけです。
もちろん、今よりは良くなりますが、悪すぎる状況から悪い状況に変わっただけ。
そのギャップで私は冷静に、今の状況を判断することができませんでした。
「まさくん。私、いちいち口出しはしないけど、私にはちゃんとホントのことを隠さずに言って。一人でどうにかしようと思わないで。それとしつこいようだけど、私が借りてきたやつは、必ずきちんと支払って」
「うん、わかってるよ・・・」
浮かれている私は、すこし「ウザイな・・・」と思ってしまいました。
ミィの心情を考えれば、言いたくなるのも当たり前です。
彼女は、答えがでないまま、不安な気持ちのまま、私を信じるという選択をしました。
その気持ちを理解してあげることができません。
最低です・・・。
「それと、給料もらって毎月、全部きちんと支払いをした後、いくら残るの?」
「うん・・・。ちゃんと計算してないけど5万くらいかな・・・」
「ホントに?」
「うん・・・。たぶん・・・」
「じゃぁ、わかったら私に教えてくれる?お金の使い方までは、なにもいわないから。把握したいのよ。まさくんと一緒に住んだら、それだけ電気代とかガス代とか食費とかかかるし、私の給料だけじゃつらいから、無理にとは言わないけど少しは入れてほしい」
「あ、うん。それは、わかってる」
「うん。まさくんが元通りになるまで、私も協力するから」
「ありがとう・・・」
「あと、駐車場、すぐ近くで空いてるから明日契約してきて、雪、積もったら大変だし、駐禁切られたら、またお金なくなっちゃう・・・」
「うん」
それからも、二人のこれからのことを話し合いました。
そして火曜・木曜・土曜は、夜にバイトがあり、深夜に帰宅すること。
バイトの後は、必ずシャワーを浴びたいことなど、生活に関わることを話しました。
バイトのことを話した時、とても自分が情けなくなりました。
それまでミィの前では、「カッコいい、出来る男」だったのです。
それなのに、腐敗した油や残飯が付着した排水溝を掃除するバイトをしているのです。
どう考えても、デキる男のする仕事ではありません。
私は、”差別”していました。
汚いというだけでそういう仕事を見下していたのです。
彼女にそんな自分を打ち明けると恥ずかしくて情けなくてたまりませんでした。
そしてそんなカッコ悪い自分がバレると嫌われることが怖かったのです。
「まさくん。何とかして復活しようと頑張ってたんだね。そういう仕事、まさくんらしくないけど、うん、だけど頑張ろうとしててなんだか素敵よ」
「えっ!?」
「ふふっ。夜、遅くにシャワー浴びられるのは、起きちゃうかもだから、ちょっと迷惑だけど」
「あ、うん・・・ごめん・・・でも、臭いし・・・・」
「ウソよ(笑)ちょっとやそっとじゃ起きないから私。大丈夫」
「なんだよ、もう」
「ウフフ・・・笑」
久しぶりのミィとのキスは、甘く優しさに溢れていました。
白波と悪夢
「まさくん、もう、早く起きて!遅刻する!」
「あ、うん・・・」
久しぶりにミィと長い時間、「ヤっていた」ので、つい寝坊してしまいます。
時計を見ると、時間はギリギリでした。
「まさくん、今日はバイトでしょ?会社終わって直接行くの?」
「いや、帰ってきてご飯食べてから行く!」
「じゃぁ、今日は私、遅いから冷蔵庫のおかず温めて食べて」
「うん。わかった。サンキュー」
急いで、用意された朝食を食べ、着替えを済ませると、昨日ミィから受け取った20万円が入った封筒を鞄に入れます。
カードは財布の、パッと見てもわからないポケット部分にしまいました。
ミィを送り、会社に向かいます。
ミィを送って行くと今まで出勤していた時間よりも早く着くため、朝の準備が余裕でした。
「おはようございまぁす」
見ると佐々木さんがタイムカードを押しています。
ミィとの関係が戻り、ましてや同棲しているともなると、これからは会うことが少し微妙になります。
でも、あまり罪の意識は感じず、重く受け止めてもいませんでした。
しっとりと吸い付くように湿った肌の感触は、何にも変えがたい気がします。
そして大きな乳房が持つ圧倒的な何かは象徴的に私の奥に入り込んできました。
ミィに対する感情とは全く違うものが、佐々木さんにはあるのです。
準備を終え、会社を出ます。
車に乗り込むと、そのままコンビニの駐車場に車を停めました。
携帯電話を開き、ダイヤルを押します。
「ハイ、リッチファイナンスです」
「あの、あべまさたかと申します」
「あべさん。どうしました?」
「えっと、支払日ではないのですが、全額返済したいのですが・・・」
「えっ、少々お待ち下さい」
受付?の人から、いつもの担当に変わります。
「もしもし、完済するんだな?」
「はい」
「じゃぁ、金額は45,000円。振込み口座は○×銀行△△支店、番号は123・・・・」
「はい、わかりました。後ほど午前中に振り込みます」
「わかった。また、なんかあったら連絡して」
「はい・・・」
二度と連絡なんかしないと誓い、電話を切ります。
続けてすぐに電話をかけます。
「はい、希望ファイナンス」
「あべまさたかです」
「あべさん。どうした」
「あ、あの・・・完済したいのですが・・・」
「あ、?完済?」
「はい」
「ちょっとまってろ」
電話口では保留音がなっています。
いつ聞いてもノイズ交じりの保留音は不快に感じるものです。
「もしもし」
「はい」
「完済だと75,000円だぞ。大丈夫か?」
「はい。後ほど、午前中にお伺いします」
「そうか、わかった」
一つずつ、まともな自分に向かっている気がして気合が入ってきました。
最後は、私を追い込んだ、あの闇金です。
心なしか少し緊張し、手のひらが汗ばんできました。
「はい、地獄金融」
いつもの男です。
「あ、あの・・・あべまさたかです」
「どうした」
低く、ドスの聞いた声は、私の全てを萎縮させます。
「あ、あの先日は、すいません・・・。それで、あの、支払日ではないのですが、完済します・・・」
「完済・・・?わかった。いつ来る?」
「きょ、今日、これから行きます。」
「わかった」
それだけ言うと、すぐに電話は切れました。
私はすぐに車を走らせ、まず銀行に向かいます。
振り込んだ後、車にもどりすぐに電話をかけました。
「はい、リッチファイナンスです」
受付の男のようです。
「あの、あべまさたかです。いま45,000円、全額振込みましたので」
「はいわかりました。では、確認しておきます」
電話を切り、ふぅっと深呼吸をします。
「よしっ、1件目終了。次っ!」
すぐにエンジンをかけ、闇金が入っているビルの階段を駆け上がります。
事務所のドアを開ける感触がいつもと違う気がしました。
「あ、あべさん。完済だっけか」
「はい」
「座って、まってて」
「はい」
パーテーションの奥からは、相変わらず怒号が響いていました。
しかし、あまり萎縮することはありません。
もうこの先、かかわることはないと思えることが、心に余裕を持たせました。
いつもの男がやって来ます。
「じゃぁ、75,000円」
「はい」
私は、予め用意していた封筒から75,000円を取り出し渡しました。
「確かに。じゃぁ借用書は破棄する」
目の前で借用書を破り、そのままシュレッダーに投入します。
細かくちぎれていく、借用書のように私の苦しみも粉々になって無くなるような気がしました。
そして、最後の闇金です。
頭の中に、昇竜の刺青がちらついてきて、緊張してきました。
これで最後です。
私は、勇気を振り絞り最後の闇金の事務所のドアを開きます。
「し、失礼します・・・あべです・・・」
するとすぐにあの男が出てきます。
仕立ての良さそうなスーツから、昇竜の刺青が透けているような気がしました。
「おう、完済か」
「・・・はい」
「45,000円」
「はい」
鞄の中からお金を取り出し、渡しました。
男のお金を数える音が、やけに響きます。
「たしかに」
お金を受け取り、借用書を処分した後、男はすぐに席を立ち上がりました。
”もう、こいつから搾り取れねぇのか”
と、言われているような気がして、一瞬怖くなります。
全身に汗をかいていて外に出るとその汗が冷えて、思わず身震いするほどでした。
車に乗り込み、公園の駐車場に車を停めると、やっと緊張感がとけてきて、安心感が全身を包み始めます。
これでもう、闇金とは決別です。
もう二度と借りないようにしようと改めて固く誓いました。
鞄を開けると、おにぎりが入っています。
久々にミィのおにぎりを頬張り、幸せを噛みしめていました。
お腹が満たされると、少し眠くなってきます。
「昨日、ちょっとはげしすぎたかな・・・・」
おそらく、今の私の顔は恐ろしくニヤついて気持ち悪い顔をしているでしょう。
シートを倒すと眠りに入っていました。
午前中は何処にも営業に行っていません。
しかし午後から取り返せばよいでしょう。
眠りに入った私は夢を見ていました。
浜辺に車を停め、海を見ていると、ミィが服をきたまま真っ白な波と戯れています。
髪の毛までびしょ濡れでした。
「ミィーっ!もう、戻って追いでよ!!」
そう叫ぶと、満面の笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきました。
びしょ濡れになった真っ白のスカートの裾を絞りながら、助手席に乗り込みます。
「もぉ、なにやってんだよミィ。シート濡れるじゃん!」
「うふふ」
ミィが微笑んだ瞬間、目まいがして一瞬全てが真っ白になりました。
そして徐々に風景が戻ってきます。
不穏な感じを覚えつつ目を開き、助手席を見ると、ミィがいません。
私は「ハッ」とし、何かを発しようとしましたが声がでませんでした。
助手席にはいつの間にか昇り竜の男が座っていてゆっくりとこちらを向き、私を睨みつけます。
「逃げられると思ってんの」
99話終了です。
やっと、闇金にケリをつけることが出来ました。
不安の中、ミィも私を信じ、二人の関係を元通りにしようと決意を固めています。
私がこの時、きちんと自分と向き合い自分のこと、ミィのこと、そして二人のことをかんがえることができれば、より良い未来がまっていたはずです。
だけど、私はパチンコ依存症・パチスロ依存症。
さらに自分を追い込み、彼女を深く傷つけてしまいます。
もう少し続きます。
100話↓
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